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マインドフルネスに健康効果なし?

アメリカのブラウン大学精神医学・人間行動学のWilloughby Britton氏らの研究チームが「マインドフルネスによる健康効果を裏付ける科学的根拠はほとんどない」とする論文を発表した。
発表したのは「Perspectives on Psychological Science」オンライン版だった。(「Perspectives on Psychological Science」「HealthDay News」10月10日)
マインドフルネスはアメリカで話題となり、有力メディアでも特集を組まれたり、ニューヨークのビジネスマンなどではメンタルメソッドにもなっていたりする。ハーバード大学を始めとする有名大学でも、心理学教室にマインドフルネスセンターを開設したりしているほどだ。
もともとは、1960年代にマサチューセッツ大学名誉教授の分子生物学者ジョン・カバット・ジン博士が発端だった。博士は東洋の禅を体験し、国際観音禅院の崇山行願に師事した。仏教の瞑想をヒントにして、禅の修行法と西洋科学を統合させた。その結果、1979年頃から「瞑想しながらをストレスや悩みを緩和する」ものとしてマインドフルネスを実践していった。これが欧米社会に受け入れられ、現在に至っている。
理論的な枠組みと実証データ、つまり科学的効果については、高名な心理学者であるJ・D・ティーズデールやJ・M・G・ウィリアムズなどにより行われていた。
脳の神経可塑性の解明や、最新の脳科学の進歩により、マインドフルネスが脳の機能と構造を変化させる仕組みが明らかになったといわれるようになった。
「Neuroimaging」(2011年)によると、MRI(磁気共鳴画像診断装置)を使った研究において、マインドフルネスを続けると、左海馬や側頭頭頂接合部の灰白質の密度が増加したというデータも出されている。左海馬は感情をコントロールするもので、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると萎縮する。側頭頭頂接合部は共感を司っている部分だ。
「Clinical Psychology Review」(2013年)では、209の研究に基づく延べ被験者数1万2000人のデータをメタ分析した結果を発表した。これよると、マインドフルネスは心理的な不安感、うつ、ストレスの減少に効果があることが「確認された」としていた。
このように、瞑想、呼吸、ヨガなどによりマインドフルネスを実践することで、不安感やストレスが軽減するというのは、科学的に実証されたものとして扱われていた。これに対して、今回、正反対の科学的根拠なしとする論文が発表されたことになる。
今回の発表をしたブリットン氏は、米国医療研究・品質調査機構による最近のレビューについて言及している。マインドフルネスの治療効果として、不安、うつ、痛みについて、中等度の効果が認められるものの、ストレスを軽減したり、QOL(生活の質)を向上させたりする効果はごくわずかしかないという事実が示されている。薬物乱用や摂食障害、睡眠障害、体重管理については、マインドフルネス療法の効果はないということだった。
ここで注意しなければならないのは、ブリットン氏は今回の発表によりマインドフルネスの効果を全否定しているわけではないという点だろう。部分的な効果については肯定し、有効である可能性についても否定しているわけではない。
今回の発表は、アメリカでのマインドフルネス関連のビジネスにおいて、誇大広告、過剰な期待感を抱かせる宣伝方法などに警告を与えている点があると思われる。日本ではそこまで拡大していないがゆえに、なかなかこの発表の意義について分からないかもしれない。