
先日、某雑誌に「セクハラにならない誘い方、口説き方」という記事が掲載され、一騒動ありました。
ただ、このような記事が出るくらい、近年、セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)に対する視線は厳しくなってきています。
職場におけるセクハラには、2種類が存在します。
1つが、「対価型セクハラ」と呼ばれるもので、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否・抵抗などしたことで解雇、降格、減給などの不利益を受けることを指します。
もう1つが、「環境型セクハラ」と呼ばれるもので、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じることを指します。
セクハラに該当するか否かは、平均的な女(男)性労働者の感じ方が基準とされます。
たとえ、本人にセクハラをする気持ちがなく、親しみを込めてそのような対応をした場合であっても、相手(平均的な女(男)性労働者)が不快と感じればセクハラと判断されます。
これくらい大丈夫だろう、という安易な考えは捨てなければなりません。
特に、身体接触を伴う場合は、セクハラとされる可能性が極めて高くなりますので、注意が必要です。
また、(1)男性中心の発想で女性の立場が無視される、(2)お茶くみや雑用など仕事上で性別による役割を求められる、(3)宴会でのお酌など性的な役割を求められる、(4)性的な関心を示されるといったことも、セクハラとされる可能性が高い行為です。
実際、過去の裁判例では、「夫との関係などを尋ねたりしたこと、「とっちゃん」と呼んだこと、身体的特徴を指摘したこと」や「服装等について指摘したこと」「毛深い場所についての発言をしたこと」が、セクハラに該当すると判断されたものがあります(大阪地判平成18.4.26、労経速1946号3頁)。
また、宴会で、「膝の上に座るよう申し向けて酌をさせた」り、「犯すぞ」と発言したりしたほか、日常的な言動も、酒席において、「女性従業員の手を握ったり、肩を抱いたり、それ以外の場面でも、特に、女性の胸の大きさを話題にするなど」の発言を繰り返していたことが、セクハラに該当すると判断されています(東京地判平成21.4.24、労判987号48頁)。
以上のとおり、通常考えられているよりも、セクハラに該当する行為は広範です。
会社は、役員・従業員に対して、どのような行為がセクハラにあたる可能性があるのか、よく説明し、十分理解させておかなければなりません。
他方、このようなセクハラ行為が発覚した場合、会社は、懲戒処分を検討することになります。
しかし、セクハラ行為が行われた=即懲戒処分という判断をしてしまうのも非常に危険です。
先ほどの裁判例は、2つとも、セクハラに該当するとの判断をしつつも、セクハラ行為を行った者に対する懲戒処分を無効としています。
したがって、役員、管理職や、総務・法務の担当従業員に対しては、どのような場合にどのような懲戒処分が相当なのか、きちんと判断できるように、よく教育しておかなければなりません。
もし、自社で判断できないということであれば、弁護士等の専門家に相談してみてもよいかもしれません。
要は、大事なことは、先走った処分を行わないようにする、ということです。
さて、このセクハラとともによく問題となるのが、パワハラ(パワーハラスメント)です。
パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。
上司から部下に対する行為が典型例ですが、同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含まれます。
また、つぎの6つ行為が、パワハラの典型的な行為とされています(なお、これ以外は問題ないということではありません。)。
(1)身体的な攻撃・・・暴行、傷害など
(2)精神的な攻撃・・・脅迫、名誉棄損、ひどい暴言など
(3)人間関係からの切り離し・・・隔離、仲間外し、無視など
(4)過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、
仕事の妨害など
(5)過小な要求・・・業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度
の低い仕事を命じる、仕事を与えないなど
(6)個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入るなど
このうち、(1)については、どのような場合であっても許容されるものではなく、身体的な攻撃=パワハラと認定されるのが通常です。
また、(2)および(3)についても、通常、業務遂行に必要な行為であるとはいえないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるもの、すなわちパワハラと認定される可能性が極めて高いといえます。
したがって、自社内で、(1)~(3)に該当する行為がなされているのを見掛けたら、即座に是正する必要があります。
役員・従業員に対しては、これらの行為がパワハラにあたる可能性が高いことを、よく説明し、十分理解させておかなければなりません。
つぎに、(4)~(6)の類型ですが、これらについては、程度問題ということもあり、パワハラかどうかが個別具体的に検討されることになります。
部下を熱心に教育していたつもりが、ある日突然会社がパワハラで訴えられる。
そういったことがないよう、十分注意しましょう。
大事なことは、役員・従業員に対して、定期的な教育・研修を実施して、対策をしっかり行っておく、ということです。