國安 耕太コラム~あなたの会社は大丈夫?:1. 安全配慮義務

突然ですが、みなさんは、1年間でどのくらいの労働災害が発生しているかご存じでしょうか?
厚生労働省の統計によれば、平成28年は、1年間で11万7910人が被災したとされています(このうち、死亡災害は、928人です。)[資料1]。
ただし、軽微等の理由で労働災害を届け出ない事業者も存在しますから、実際にはもっと多くの労働災害が発生しているものと考えられます。
そして、総務省統計局によれば、現在の我が国の就業者数は、約6563万人とされています(平成29年7月)[資料2]。
そうすると、だいたい556人に1人(労働者の0.18%)が被災していることになります。
この数字を多いとみるか、少ないとみるかは、判断が分かれるところだとは思いますが、起こりえない稀有な事象とはいえないでしょう。
さて、業務が原因で、従業員が死傷した場合、従業員ないしその家族は、会社に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求(民法709条)をすることができます。
また、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求(民法415条)をすることもできます。
安全配慮義務とは、判例上、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59.4.10、民集38-6-557、川義事件)とされてきたもので、現在では、労働契約法5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。
そして、たとえば、過重労働が問題となった過去の裁判例では、
「会社は、労働者であるAを雇用し、自らの管理下におき、a駅店での業務に従事させていたのであるから、Aの生命・健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を負っていたといえる。具体的には、Aの労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、一時、やむを得ず長時間労働となる期間があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間及び休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。」
として、
「給与体系において、本来なら基本給ともいうべき最低支給額に、80時間の時間外労働を前提として組み込んでいた」こと、「三六協定においては1か月100時間を6か月を限度とする時間外労働を許容しており、実際、特段の繁忙期でもない4月から7月までの時期においても、100時間を超えるあるいはそれに近い時間外労働がなされており、労働者の労働時間について配慮していたものとは全く認められない」こと等の事実を認定し、
「会社が、Aの生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠り、不法行為上の責任を負うべきであることは明らかである。」
と判示して、長時間労働を原因とする死亡につき、会社に損害賠償請求を認めました(京都地判平成22年5月25日、労判1011号35頁。大阪高裁、最高裁もかかる判断を支持しています。)。
また、昨今では、会社だけでなく、取締役等の役員個人に対する損害賠償訴訟も提起されるようになってきました。そして、実際に損害賠償請求が認められる事案も出てきています。
上記裁判例でも、会社のみならず、役員個人に対しても、会社法429条1項[※]に基づく損害賠償義務を認めています。
以上のとおり、会社にとって、業務が原因で、従業員が死傷することのないよう適正な労務管理を行うことは、非常に重要です。
しかし、会社のみならず、役員個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持っています。
事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を心掛けましょう。
※ 会社法429条1項
「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。