
アニマルセラピーという用語は日本の造語で、動物介在療法(Animal Assisted Therapy, AAT)と、動物介在活動(Animal Assisted Activity, AAA)に分類されるものの総称といえるでしょう。
動物と触れ合うことにより、内在するストレスを軽減させる効果を狙うセラピーで、他者を信頼するようになる・自信を持つことができる等々により精神的な健康を回復させることができると考えられています。
本格的なアニマルセラピーでなくても、日常でストレスを低減させる代表格といえば「猫」との触れ合いでしょう。
以前は愛玩動物・ペットといえば犬でした。しかし、一般社団法人日本ペットフード協会が今年公表した「平成28年(2016年)全国犬猫飼育実態調査結果」によれば、犬の頭数は減少傾向にあり、猫は横ばい状態が続いているという結果でした。猫が増えたというより、犬が減ったというのが正しいようです。
また「猫カフェ」も店舗形式として立派に認知されたり、以前にはなかった愛猫の画像をSNSで拡散させる人が増えたりしたことで、猫がより身近になったようです。
さて、そんな猫ですが、犬と比較してわがままだったり、人に対して素っ気ない態度をとるイメージがあります。犬には躾けをしても、猫にはしても無駄だという風潮もあります。
ところが猫が人に与える効果は、実は絶大なものがあるのです。
人が猫と触れ合っているとき、医学的に見て、人はリラックス状態により血圧や心拍数が低下するともいわれます。
動くものに反応する野生を垣間見せたり、無邪気に甘える姿、関心を引こうとして近寄ってくる姿等々、猫とコミュニケーションをとることで、心が平静な状態となっていきます。ストレスが減少し、精神的に癒される効果があるといわれます。孤独感が減るという話もあるようです。
さらに、猫には犬にはない、効果増幅兵器もあります。
それが「ゴロゴロ」です。
猫がゴロゴロとのどを鳴らす姿は、猫を飼ったことのある人なら誰もが微笑ましいと感じていることでしょう。
ところがそのゴロゴロの理由としては様々な説があるようで、定説になっているものがありません。身近な猫にも関わらず、まだまだ解明されていないようです。
そんな中、最も有名な説が赤ちゃん返り説です。
ドイツの動物学者パウル・ライハウゼン(Paul Leyhausen)の説で、彼は子猫が母猫から母乳を吸っているときに、よくゴロゴロという音を出すことに気づいたことに由来します。のどを鳴らすのは、安心感を表現することで母猫に伝えているのでは、と考えました。そのため、成長後もまるで子猫のようにゴロゴロとのどを鳴らすことで、気持ちが子猫に戻り、幸せや安心感を抱いている、つまり「赤ちゃん帰り」しているという説になり、おそらくこの説が最も広く信じられているのではないかといわれています。
ところがイギリスではサセックス大学の研究グループが別の発表をしました。幸せや安心感というゴロゴロとは異なる、「要求のゴロゴロ」を発見したのです。
これは、猫が飼い主に対して何らかの要望を抱いているときに発する音で、高周波の声が含まれているのが特徴だといいます。音声分析まで実施しました。高周波の声だけ取り出し、被験者に聞かせた結果、猫を飼ったことがない人でも、不思議なことに「緊急性」を感じたというのです。
次に高周波の声を除去した場合、そのような緊急性は消え、通常の「ゴロゴロ」と判断されるようになったといいます。つまり20〜50ヘルツの低周波音の「ゴロゴロ」は幸せや安心感の音で、高周波になると欲求の音になるという結果だったことになります。
この猫の「ゴロゴロ」ですが、人が聞いた場合の効果としては、血圧を下げたり、不安を和らげたりするともいわれます。おそらくこの場合の「ゴロゴロ」は低周波のものだと思います。
ポジティブな思考や幸福感を人の脳に伝えてくれる効果があり、ストレスを解消し、さらには免疫力をあげるとまでいわれたりしています。実際にストレスが蓄積して、身体の機能にまで悪影響を与えてしまっているような場合でも、猫の「ゴロゴロ」を聞くことが音楽のように心地よく有益に働いてくれるようです。そのためか、副作用のない薬とまでいわれることもあるほどです。
高周波の「要求のゴロゴロ」については、ストレスとは無縁のようにも思えます。
しかし、猫との関係でいえば、必ずしもそう断定するわけにはいかないかもしれません。無邪気に一直線に欲求をしてくる姿と「緊急性」を感じさせる音の組み合わせを前にして、何もせずにいられる人は多くないでしょう。愛らしい猫の姿を見て、「猫の奴隷」になってしまう人は多いのではないでしょうか。
またそのように接することでより猫との絆が構築され、癒し効果も倍増していくかもしれません。
余談になりますが、猫の「ゴロゴロ」音の振動は、骨折をしても他の動物の約3倍の速さで回復する猫の特性に関係しているともいわれています。フランスの理学療法士がそれを再現することで人の骨治療に用いているという話もあるそうです。