ヨコイコラム~減俸~

減俸といっても様々な種類がありますが、大きく下記の5パターンに分けられます。
1)降格人事による減俸
2)職務内容の変更による減俸
3)新しい人事制度の導入による減俸
4)懲戒処分による減俸
5)業績不振による賃金の切り下げ

1つずつ詳しく見ていきましょう。

1)降格人事による減俸

職位の引き下げによる職務手当の減額は、使用者の人事権の行使に伴うものですので、特に就業規則の定めがなくとも行うことができると考えます。例えば、部長として不適切な労働者を部長代理に降格させ、それに伴って部長としての職務手当を見直すことができます。
※ちなみに本稿で「できる」と書いてある記述は文字通り「できる」「できない」の話になります。従いまして、それ(減俸)に相手方が合意するかしないか、というお話はまた別の論点になりますのでご留意ください。労働条件の変更が不利益なものである場合は、原則として労働者の個別合意が必要になること、突然減俸の通知をするのではなく、例えば「〇〇の状況が〇までに改善されない場合は減俸になるよ、具体的には〇〇ができるように努力してもらいたい」というように、相手方において一定の予測が持てることや改善のチャンスが与えられているかetc.なども大事になってきます。

2)職務内容の変更による減俸

配置転換に伴う職務内容の変更により、職務内容に応じた給与の変更(結果として減俸)にする場合、適用ルールが就業規則や労働条件として従業員に周知されていれば問題ありません。周知されていない場合、職務内容の変更は認められても、減俸は当人の同意がなければ難しいでしょう。

3)新しい人事制度の導入による減俸

労働契約法第9条、第10条によると、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働条件を変更することはできない。ただし、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性などが合理的なものであるときはこの限りでない」とされています。
従業員が減俸になる根拠や基準によっては、法的に問題となるケースもあるので注意が必要です。
この点、ちょっと以前の判例になりますが、大曲市農業協同組合事件(昭和63年2月16日)では、
①(変更後の就業)規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成または変更が、その必要性および内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいう。
②特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。
として、退職金の支給率を見直した会社側の措置を認めて、労働者側の言い分を退けま
した。

4)懲戒処分による減俸

就業規則の中に懲戒処分に関する種類と事由を記載しておく必要があります。そもそも就業規則がない場合には懲戒処分による減俸はできません。
また、規定がある場合でも、労働基準法91条により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の1/10を超えてはならないと定められています。
ところで、懲戒処分は就業規則を根拠として会社が一種の制裁を労働者に課すというものです。国家が刑罰権を発動する際には、罪刑法定主義のもと“刑法”という根拠をもって制裁が科されることになるのと同様に会社が制裁を科す根拠として就業規則が求められている、ということなんですが、就業規則が会社の制裁権の根拠として十分なのか?という議論もなくはない、ということも知っておくとよいかと思います(制裁は課さない方が良い、という意図ではありません。制裁が必要な場面は否定しない立場です)。

5)業績不振による賃金の切り下げ

会社が一方的に給料を切り下げすることは法的に認められていません。合理的な理由があれば例外的に認められていますが、社員の同意は必要です。業績不振による賃金の切り下げを行ない場合、その対象は従業員全員にするのが適当です。特定の層だけを対象にすると合理性がありません。
 また、いわゆるこうした場面は“リストラ”ということになると思いますが、リストラを円満に進めていくためには、なによりプロセスが重要です。大量の離職者が想定される場合には事前に管轄の労働基準監督署(労働者からの相談が予想されること)やハローワークや電子申請事務センター(離職票の発行で負担を発生させてしまう)などと予め情報共有をしておくことが好ましいと考えられます。この他、リストラをなるべく円満に進捗させていくためには、まずは希望退職者の募集からスタートする、といったプロセス管理が重要になってきますので、もしもリストラ問題が具体性を帯びてきましたらお早めに専門家にご相談いただくのが良いでしょう(弊所では従業員数50名以上のリストラをやむなく進めざるを得なかった案件を数件、コンサルタントとしてサポートしてきた実績がございます)。

減俸や解雇など、労働者側にデメリットとなる変更は、労働者側の納得感があればトラブルにはなりにくいので、各従業員の労働条件(基本給や手当の内容)の認識を従業員と合わせておくことが必要です。具体的には、前にも少し触れましたが、いきなり「今月分の給与から〇円減らすよ」と減俸の通知をするのではなく、例えば、
①「〇〇の状況が〇までに改善されない場合は減俸になるよ」というように、相手方において一定の予測が持てるように通知をしておくこと
②「具体的には〇〇ができるように努力してもらいたい」と求める改善事項を具体的に伝えて改善に向けたチャンスを与えること
が揉めない減俸処分の要諦となります(その結果、改善されたらそれに越したことはないはずです)。
また、従業員と日ごろから労働者と事業主との良好な関係(信頼関係)が大切になってきますが、労使間の信頼関係は「明示すること(例えば労働条件や各種の労働者からの問い合わせにしっかりとフィードバックすることetc.)」や「予告すること(懸案について解決の道筋をつけてあげたり、会社が採用する諸施策について余裕をもって告知しておくことetc.)」などが非常に重要なポイントだと感じています。

文責:ヨコイ・マネジメントパートナーズ 杉山千秋

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