ヨコイコラム~セクハラ記事

パワハラ、セクハラ、モラハラ、マタハラと現代の組織には様々な〇〇ハラスメントが問題となって持ち上がることが少なくありません。もはや他人事では済まされないのです。ハラスメント対応はあらゆる企業のあらゆる部門においてマネジメントが求められる、そんな時代なわけですが、今回はこのうちあるセクハラ事件について考えてみたいと思います。まずは実際にあった事例をご覧ください。

■ 事例:薬局でのセクハラ事件

◆概要
有限会社a薬局(以下「被告会社」という)にパートタイマーの事務員として勤務していた原告が、被告a薬局の代表者である被告bからセクシャル・ハラスメント(セクハラ)を受け、また、そのことを職場の者に相談したことにつき一方的に責められた上に不当に解雇され、心的外傷後ストレス精神障害(PTSD)を発症したと主張し、被告らに対して不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

◆判決:原告(労働者)側勝訴
原告が上記被告bの一連の行為後2年以上にわたって就労に耐えない状態となっていることと被告bの不法行為との間の因果関係も認められるものと言える。原告の主張する損害額もあながち過大なものとは言い難いものと考えられ、被告に560万円の支払いを命じる。

 

■ 解説

概要と原告側勝訴の結論は良いとしまして、マネジメント上、気になるのは「どのような行為があって、このうちどのような行為がセクハラ(不法行為)として認定されたのか?」の部分になると思います。それでは、今回の事例では、何がセクハラと判断されたのでしょうか。

被告bの行為は、まず

1.本件薬局の経営者である被告bが夜間帰ろうとする原告を強いて他の人のいない被告会社の薬局2階和室に連れこみ、
2.被告会社に雇われて間もない(かつ学生である)原告に対し、その抵抗を省みず、性的な関係を迫り、
3.身体を密着させ、④無理にキスをしようと顔を近付けるというものであり、

まさにセクハラとして相手方の性的自由・人格権を侵害する行為以外の何物でもないと判断されました。

■セクハラとは?

では、職場でのどのような行為がセクハラと判断されるのでしょうか。
上記「■ 解説」では、被告bの行為をいわば段階的に分けて1.2.3.4と徐々にセクハラの態様をエスカレートしていくように本件を整理してみました。一般的に「どこまでのラインであればセクハラにはらなくて、どのラインを超えるとセクハラになるのか?」といういわば“線引き論”を耳にすることが多いためです。しかしながら、こうした一般的な“線引き論”は誤りで、許されるラインと許されないラインという“線引き”は必ずしも妥当なものではありません。
何をもってセクハラとされるか、については線が引かれる類のものではなく、行為の態様全体や相手がハラスメントと感じるかどうか、という主観的要素も加味されて認定されるものだからです。

一方、職場において、男性上司が女性の部下に対してする身体接触や性的発言のすべてが違法性を有する不法行為に当たるわけではありません。

内容及び態様、発言内容、接触部位・時間、発言・接触の態様や程度、反復性・継続性、発言・接触行為の目的、相手方に与えた不快感の程度、行為の場所・時刻(他人のいないような場所・時刻かなど、勤務中の行為か否か)、行為者と相手方との職務上の地位・関係等の諸事情を総合的に考慮して、当該行為が相手方に対する性的意味を有する身体的な接触行為であって、社会通念上許容される限度を超えるものであると認められるときは、相手方の性的自由又は人格権に対する侵害に当たり、違法性を有すると解されます。

つまり、

【a】職場で行なわれた行為か
(「職場」には、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等、当該労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に該当。)
【b】性的意味を有する身体的な接触行為
【C】相手の意に反するものかどうか

を総合的に判断し、社会通念上の許容範囲内かどうかで違法性をみるようです。

■セクハラ対策

セクハラ対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
先にみたようにセクハラの認定基準は明確に線引きできるような類のものではありません。また被害者の主観的な要素も多分に影響するものです。しかし、その一方で企業がセクハラ対策を何ら講じていないとされるならば、セクハラという不法行為を漫然と放置したetc.と不法行為責任のリスクを抱えてしまうことになりかねません。

このため一般に企業としては

【1】職場内で通常、業務を進めていく上で無用と考えられる態様を一般的に禁止する手法(例:スリーサイズを聞くなど性的な関心・欲求に基づく発言の禁止、「男のクセに根性がない」という発言の禁止etc.)と
【2】万が一のセクハラ事案が発生した際に被害者のプライバシーに配慮しながら事実認定と事案解決を進めていく相談窓口の設置、対応フローの構築

というようなインフラ環境の整備の2軸で対策が講じられることが一般的です。
具体的には、「セクハラ防止のため、雇用管理上講ずべき措置として、厚生労働大臣の指針により 10 項目が定められており、事業主は、これらを必ず実施しなければな」らないとされています。

【10項目のポイント】
1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
⑴ 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあって
はならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
⑵ セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内
容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
2 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
⑶ 相談窓口をあらかじめ定めること。
⑷ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
また、広く相談に対応すること。
3 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
⑸ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
⑹ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
⑺ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
⑻ 再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)
4 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
⑼ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
⑽ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行っ
てはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

また、厚生労働省が「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号 最終改正:平成 28 年8月2日厚生労働省告示第 314 号)を定めていますので、是非、参考にしてみていただきたいのと、このほか、東京都産業労働局「職場におけるハラスメント防止ハンドブック」や人事院規則も参考になります。より詳しい企業としての対策については個別の企業により検討を要することもありますので、お気軽にお問合せいただければと思います。

ヨコイ・マネジメントパートナーズ
 パートナー 杉山千秋

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